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人事・労務の問題

中小企業の労務管理のポイント

 中小企業の労務問題で、労働審判や訴訟となるのは、解雇、退職、残業代請求がほとんどです。


 これらの問題は賃金請求を伴いますので、労働者が最終的にまとまった金銭を取得することが可能となる場合が多く、弁護士費用というコストをかけてでも法的手続を取りやすいということがその理由と考えられます。

 セクハラ・パワハラ等のハラスメント問題は、得られる慰謝料相場がそれほど高くなく、」主張立証の負担も大きいため、よほどの重大事案でない限りハラスメントを理由とした損害賠償請求を目的とする労働審判や訴訟の提起がなされることはそれほど多くありません。

 以上のことからすると、中小企業の労務管理のポイントとしては、まずは
 ① 従業員の解雇・退職の際には細心の注意を払い、
 
② 未払残業代を受けないよう適切な労働時間管理を行うこと
 を主眼において取り組むのが良いでしょう。
 これらを盤石にしたうえで、
 ③ ハラスメント対策等、その他の労務管理ついても努力を尽くすことが重要です

解雇について

 日本の労働法では、「解雇」については、極めて厳しく規制がされています。

 本人にその企業で働く意思がある限り、法的に有効な解雇をすることは、難しいといっても過言では無いかもしれません。
 一方で解雇以外の規制は比較的緩やかに解されていますので、配置転換や退職勧奨等、様々な選択肢を検討しながら対処していく必要があります。

会社の接待費を指摘に流用した従業員への対処

 従業員が会社の接待費を専ら私的な飲食等に流用した場合、刑法上の詐欺罪、横領罪等に該当する可能性がありますので、会社として厳正な対処が必要です。

   会社としては懲戒手続を検討することになるでしょう。

   会社が当該従業員を懲戒するためには、

   就業規則に規定があることが必要です。通常は「金銭の横領その他刑法に触れるような行為をしたとき」といった規定があるはずですので、この規定によって懲戒を行うことができます。

   証拠が必要です。証拠としては、会社への接待費の申請書、関係者の証言等が考えられます。証拠が不十分な場合、懲戒処分が訴訟で争われると、懲戒処分が無効となってしまいます。従って、当該従業員が事実を否定し、会社も十分な証拠が得られていない場合には懲戒処分を行うべきではありません。配置転換等により、以後当該従業員が接待費を使用できなくする等の対処をすべきです。

   就業規則所定の手続を履践することが必要です。懲戒委員会の開催、本人への弁明の機会の付与等です。

   懲戒処分はどの程度が妥当かについては、当該従業員が流用した金額の多寡、本人の反省の度合い、流用金額の返還の有無、悪質性、過去に同様の事情により軽微な懲戒処分を受けたことがあるか等の諸事情を考慮して決めることになりますが、いきなり懲戒解雇をすべきではなく、まずは、減給、出勤停止等にとどめるべきであると考えられます。

従業員が逮捕された場合の会社の対応

 休日又は就労時間外の深夜に、従業員が飲酒運転で死亡事故を起こして逮捕された場合、会社としてはどのような対応をすべきでしょうか。

   休日や就労時間外の行為は、原則として就業規則上の懲戒処分の対象とはなりません。就業規則上の懲戒処分は、企業がその事業活動を遂行するに必要な範囲で認められるものであり、従業員の私生活上の行為は、通常、企業の事業活動の遂行と無関係だからです。

   もっとも、従業員の私生活上の行為が、企業の事業活動の遂行に直接関連したり、企業の社会的評価を損なうような場合には、例外的に懲戒処分の対象とすることができます。

   どのような場合に、企業の社会的評価を損なったといえるかについては難しい判断となりますが、必ずしも具体的に企業の業務を阻害したとか、取引上の不利益が発生したということまでは必要ではなく、当該従業員の行った犯罪行為の内容、情状、企業の規模、当該従業員の企業における地位、社会の状況、報道により企業名が公表されたか、など、諸般の事情から総合的に判断することになります。

従業員のミスにより会社に損害が生じた場合

 従業員のミスが軽微なものである場合、就業規則に基づいた相当な懲戒処分を行うことや、成績評価において不利益な評価をすることは可能です。 もっとも、懲戒処分は、過失行為と処分が均衡していることが必要であるため、軽微なミスを理由として解雇等の重大な処分を行うことは許されません。

   従業員のミスが相当程度大きな場合、そのミスが労働能力や適格性の欠如によるものである場合には、就業規則に基づいた相当な懲戒処分や配置転換・降格等の人事上の措置を講ずることが可能です。事案によっては普通解雇等の厳しい措置を講ずることも可能となります。もっとも、解雇は従業員の受ける不利益が大きいことから、ミスの程度と解雇という不利益が均衡しているか、会社として事前に安全対策や教育指導をしてきたのか慎重に検討してから決定すべきです。後の紛争(不当解雇等)を防止するためには、従業員と話し合い、円満に退職してもらう(退職勧奨)ことも必要です。

   従業員の会社に損害を負わせた行為が、故意や重大な過失による場合等、悪質な場合には、会社秩序の維持のため、懲戒解雇を選択せざるを得ないでしょう。

多重債務の従業員への対応

 一時期と比べ、最近は減ったようですが、まだ勤務先の会社に取立ての電話を頻繁にかけてくるサラ金業者も多いようです。 

   その従業員が、労務提供をきちんと行っている限りは、借金があったとしても、ただちに企業秩序を乱したり、業務遂行を妨げたと評価できるものではありません。

   従って、従業員が多重債務者となっていることが判明したり、会社に督促の電話がかかってきたとしても、それだけでは懲戒や解雇の理由にはなりません。

   確かに、会社に取立ての電話が頻繁にかかってくることは、会社にとっても、職場の同僚にとっても迷惑なことなのですが、それはそのような取立てをする業者に問題があるのであって、本人を懲戒する理由にはならないのです。

   しかし、例えば、従業員が、職場の同僚からも借金をしてトラブルになっていたり、借金に悩んで勤務に身が入らないような場合には、個人の私的な問題として放置することはできませんので、何度か注意しても態度が改まらない場合には、企業秩序維持の観点から、譴責(けんせき)などの懲戒処分を検討することもやむをえないでしょう。

   もっとも、御社の大切な従業員なのですから、まずは、本人から事情を聞き、相談に乗ってあげることが望ましいでしょう。顧問弁護士がいるならば、顧問弁護士のところへ連れて行くことです(私も、以前、顧問先の会社の人事担当の方から、多重債務を抱えた従業員の相談を受けたことが何度かあります)。

   弁護士に依頼すれば、その従業員に対する督促は止めることができますし、自己破産や債務整理など適切な方法についてアドバイスを受けることができます。

   尚、勤務先への督促の電話は、貸金業規制法や金融庁のガイドラインに反しますので、この場合は、当該従業員を責めるのではなく、サラ金業者に抗議するとともに、余りにも度が過ぎる場合には警察にも相談するようにしましょう。

従業員の給料の差押通知が届いたとき

 賃金は、直接労働者に支払わなければならないのが原則です(労基法24条1項 直接払いの原則)。違反は処罰されます。

   しかし、国税徴収法や民事執行法に基づいて、従業員の給料が差し押さえられたときは、会社は、差押をした行政官庁や債権者に支払わなければなりません。差押通知は裁判所や行政官庁から届きますので、債権者が直接「差し押えた」といった内容の通知を会社に送ってきても、裁判所からの通知を確認しない限り、支払うことはできません。

   但し、差し押さえることができる金額には限度があり、民事執行法に基づく差押えでは、給与、賞与、退職金等について、原則として手取額の4分の3に相当する額までは差し押さえることはできないことになっています(民事執行法152条1項、2項)。但し、月給や賞与については、手取額が44万円以上の場合は、33万円を控除した残りの額全額を差し押さえることができます(民事執行法施行令2条1項、2項)。

   また、子供の養育費の不払いで強制執行する場合は、手取額の2分の1まで差し押さえることが可能です(民事執行法152条3項、151条の2第1項第2号、第3号)。

金融業者が従業員の賃金の譲渡を受けたと連絡してきた場合

 賃金は、直接労働者に支払わなければならないのが原則です(労基法24条1項 直接払いの原則)。

   従って、金融業者へ賃金を支払うことは認められません。

   従業員が金融業者へ支払って欲しいと会社に依頼してきても、会社は従業員に賃金を支払わなければなりません。

   本人の委任を受けた代理人への支払いも認められていません。「従業員Aの代理で来た」といって賃金の支払いを請求をされても支払ってはならないことになります。

   もっとも、従業員本人が病気などで賃金の受領ができないとき、妻が本人の使者として受領することは許されています。

従業員貸付と退職金を相殺して良いか

 無条件に相殺することは許されません。

   退職金も労働基準法(労基法)上の賃金ですから、労基法の賃金の支払に関する原則の一つである全額払いの原則(労基法24条)の適用があります。

   従って、従業員貸付の貸付金と退職金とを相殺するためには、労基法24条に定める労使協定があることが必要になります。また、相殺するためには、双方の債権について期限が到来していなければなりませんので、会社と従業員との貸付契約において、退職時に期限の利益を喪失し(退職時に残金全額を返済する)、返済は退職金と相殺する旨の約定を締結しておく必要があります。

   では、労使協定が無い場合はどうでしょうか。

   判例は、その場合でも労働者の同意を得てなされた相殺で、その同意が労働者の自由意思に基づくものと認められるような事情がある場合に、相殺を認めています。以下は、有名な判例ですので参考にして下さい。

   日新製鋼事件(最高裁判例平成2年11月26日)

   使用者が労働者の同意を得て相殺により賃金を控除することは、右同意が労働者の自由意思に基づいてなされたものであると認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するときには本条の全額払いの原則に違反しない。労働者が会社や銀行等から住宅資金の貸付けを受けるに当たり、退職時には退職金等から融資残債務を一括返済し、銀行等への返済については会社に対して返済手続を委任する約定をし、会社がこれに基づいて、自己貸付金の残金一括返済請求権、及び右委任に基づく銀行等の貸付金の残金一括返済のための返済費用前払請求権(民法649条)をもって退職金債権等と相殺した場合に、返済の手続等を労働者が自発的に依頼し、右貸付が低利かつ相当長期の分割弁済を予定しており、その利子の一部を会社が負担するような措置がとられているときには、労働者の相殺の同意はその自由意思に基づくものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在したものといえる。